57.『季節の記憶』 保坂 和志 中央公論新社
季節の記憶 (中公文庫) | |
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参考になった箇所
- 長くつづくつき合いというのは対等ではないもので、寄りかかっていた方がだんだん対等に近づいていくときはむしろ関係が離れていくときなんじゃないかと思う。
- 長い時間働いて人並み以上の収入を得ることは良しとして、逆に、収入は人並みより少なくてもかまわないから働いている時間を短くしていたいという人間には文句をつけるというのは労働を美徳として疑わなかった時代の残り滓で、僕は労働をいいことだとは思っていないから収入よりも暇な時間のほうを選ぶ。
- 気持ちに少々のわだかまりがあっても表面上笑っていられればそれでじゅうぶんで、あとは時間がたてば本当に「気にしない」のレベルになる。
- 「等価な二つの選択肢のどっちを取るかっていうことになったら、結局“好み”だとしか答えられないんじゃないですか」なんて言って、客観的であったり冷静であったりすることが“知性”だと思っているやつらを言い負かしていた
- 「それにしても、人間は知性と比べて大きすぎる感情を持ってしまったな」
感想
この頃小説はほとんど読まないのですが、保坂和志は別。
たま〜に読みたくなります。
鎌倉の稲村ガ崎に住む父子が近所の人たちと散歩したり、ご飯食べたりしながら、いろいろ話す。
簡単にストーリーをまとめると、これくらいです。
ドラマチックな怒涛の展開は皆無といっていいでしょう。
それでも引き付けられてどうしようもない。
それは、話しながら変わる思考や、季節や稲村ガ崎の情景の描写が完璧だからだと思います。
物語的なわかりやすい変化はなくても、
日々は流れ、徐々にすべては変化していく。
それを丁寧に描写していくから、何度も何度も読み返すのだと思います。
超ベストセラーにはならないでしょうが、
あらすじだけ把握すれば読んだ気になれるような幾多もの小説より、断然お勧めです。
フィーリングが合えば一生の付き合いになるでしょう。
(ちなみに、私はこの小説に出てくる「僕(=父)」の理屈にだいぶ影響を受けてます)