181.『戦争の法』 佐藤 亜紀 ブッキング


戦争の法戦争の法
佐藤 亜紀

ブッキング 2003-10
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メモ

  • 誰かを沈黙させたいなら、殴るより宥めるか、幾らか握らせた方がいいはずだ。それを忘れては、肝心かなめの暴力的手段の迫力が著しく薄れることになろう。暴力を辞さない覚悟でいなければ脅しにはなりはしないが、伝家の宝刀を抜きっぱなしなのは如何にも間抜けである。(中略)効果的に使用されない暴力など怖くもなんともない。
  • 裏切りと言うものは、ちらりと心に兆しただけでも十分致命的なのである
  • 理解することとは追体験することだ。自分の知っている方に押し込むことなく、その経過の支離滅裂を支離滅裂そのままに追体験する
  • 私は食べている最中に食べているものを貶さない。食事が不味くなる。どんなに不味いものでも、私は自分の下を誇るために貶したりはしない。それよりは和気藹々と食べることの方がずっと大事である
  • 場数に関しては並の愛好家以上に踏んでいたようだが、鑑識眼を働かせようなどと言う気はかけらもなく、ただその日その日の舞台が面白ければそれでいいようだった

一言

「1975年、日本海側にあるN県が突如独立を宣言し、街にはソ連兵が駐留するようになった。中学生の「私」は崩壊した家を捨てて山へ行き、ゲリラの一員となって厳しい訓練を受けるが…」(Amazonより)

戦争ものにありがちな盛り上がりに欠けますが、冷静な筆なのにぐいぐい読ませるのは実力とともに登場人物の魅力があるからでしょう。「私」を一人前のゲリラにしたのはリーダー格の「伍長」。この人に「私」もぼくも惹きつけられました。

また、戦争後のヨーロッパ編も好きです。描写が美しい。作者のヨーロッパ愛が伝わります。

文体の格調が高くてシニカルな作風のため、好みが分かれる小説ですが、はまる人と中毒になります。